長年にわたり、海外映画を日本の観客に届けてきた字幕翻訳のプロ、戸田奈津子さんが2022年に通訳の仕事を引退しました。昭和、平成、令和の3つの時代を通じて映画業界に大きな貢献をしてきた戸田さんの引退は、多くの映画ファンや映画業界関係者にとって驚きと感動を与えました。
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引退の理由とその背景
戸田奈津子さんは2022年に通訳の仕事から引退しました。ちょうどその頃、映画『トップガン マーヴェリック』が日本で公開される直前で、主演のトム・クルーズが来日するタイミングと重なったため、話題になりました。
戸田さんは「通訳には素早い反応が必要だけど、年を取ると反応が遅くなることがある」と話しています。映画に関わる人たちに対して、そんな状態で通訳を続けるのは失礼だと考え、自分から引退を決めたそうです。
また、体力的な負担も引退を決めた理由の一つです。映画イベントや舞台挨拶は長時間にわたることが多く、集中力を維持するのが難しくなってきたと感じたそうです。それでも、字幕翻訳の仕事は比較的自分のペースで進められるため、今後も続けていくと語っています。
字幕翻訳者としてのすごい実績
戸田奈津子さんは1970年に映画『野生の少年』で初めて字幕翻訳を担当しました。それ以来、1,500本以上の映画の字幕を手がけています。『地獄の黙示録』、『ミッション・インポッシブル』シリーズ、『タイタニック』など、大ヒット映画の字幕も担当しています。
字幕翻訳は、単にセリフを日本語にするだけでなく、映画の雰囲気や登場人物の感情を正確に伝える必要があります。『タイタニック』では、ジャックとローズの感情の微妙なニュアンスを的確に表現することで、観客が感情移入しやすくなっています。『ミッション・インポッシブル』シリーズでは、緊張感やスピード感を損なわないように短く的確なセリフに言い換える工夫をしています。コメディ映画では、英語のジョークが日本語で自然に感じられるように、言葉遊びや文化的背景を考慮して翻訳しています。
また、ジャンルごとの違いに対応した翻訳テクニックも秀逸です。アクション映画ではテンポを重視し、コメディ映画ではユーモアが自然に伝わるように翻訳しています。このような繊細な工夫が、多くの映画ファンから「戸田字幕」として親しまれている理由です。
トム・クルーズとの特別な関係
戸田奈津子さんとトム・クルーズの関係は、単なる通訳者と俳優というだけではありません。30年以上にわたり、トム・クルーズが日本に来る時はほとんどの場合戸田さんが通訳を担当してきました。
特に『ミッション・インポッシブル』シリーズのプロモーション時には、戸田さんがトム・クルーズの隣に立って通訳をしていました。戸田さんはトム・クルーズの話す英語の癖やジョークのパターンを完全に理解しており、そのためインタビューや記者会見でもスムーズな対応が可能でした。
引退を伝えた時、トム・クルーズはとても驚き、引き止めようとしたそうです。しかし、最終的には戸田さんの決断を尊重しました。このことからも、2人の間に築かれた強い信頼関係が感じられます。
戸田奈津子さんが大切にしていること
戸田さんは「人生は短いから、好きなことをするのが大切」と話しています。嫌なことを無理に続けるより、自分がやりたいことに集中する生き方をしてきました。
また、SNSを利用する時間を減らして本を読むことの大切さも強調しています。歴史の本を読むのが好きで、仕事が忙しくて読めなかったことが心残りだったそうです。引退後は読書を楽しんでいるとのことです。
映画を観る際も、ただ楽しむだけではなく、翻訳や演出に注目しているそうです。「映画は言葉の芸術」と語る戸田さんにとって、字幕翻訳はまさに自己表現の一部だったのです。
映画界に残る戸田奈津子さんの功績
戸田奈津子さんの通訳引退は、日本の映画界と海外の映画界をつなぐ大きな役割が失われたことを意味します。しかし、今後も字幕翻訳の仕事を続けてくれるのは映画ファンにとって嬉しいことです。
これまでに手がけた映画の数々は、今後も日本の映画史に刻まれていくでしょう。また、戸田さんが育成した後輩字幕翻訳者たちも、彼女のスピリットを受け継いで活躍していくことでしょう。
1,500本以上の海外映画を日本に紹介し、その魅力をしっかり伝えてきた戸田奈津子さんの功績は、これからも映画界に語り継がれていくでしょう。
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